17　髪の中の半球

　嗅がせておくれ、長く長く、君の髪の匂いを、渇いた人が泉の水にするように私の顔をそこに沈めて、そして、匂いのついたハンカチのように私の手で君の髪を振わせておくれ、空中に思い出を揺するために。

　もしも君が、私の見るすべてを知ることができたなら！私の感じるすべてを！私の聴くすべてを！君の髪の中にだ！　私の魂が香りの上を旅するのは、他の人々の魂が音楽の上を旅するようなものだ。

　君の髪は帆と帆柱にあふれた一つの夢をまるごと含んでいる。大きな海を含んでいて、そこを吹く季節風は私を心地よい風土の方へ運び、そこで空間はより青くより深く、そこで大気は果物によって、葉によって、人の肌によって、香り立っている。

　君の髪の大洋の中に、私が垣間見るのは一つの港で、そこではあらゆる国の力強い男たちと、永遠の暑気がただよう無限の空に繊細で複雑な建築を際立たせているあらゆる形の船がひしめいている。

　君の髪を愛撫していると、私は再び見出すのだ、美しい船の一室にある長椅子で過ごした長い時間の気怠さを、そこで、花瓶と水壺の間で、港の感じられないほどの横揺れに揺られていたあの気怠さを。

　君の髪の燃え上がる炉の中に、私は、阿片と砂糖に混じった煙草の匂いを吸い込む。君の髪の夜の中に、私は、熱帯の蒼空の無限が輝くのを見る。君の髪の和毛におおわれた岸辺で私は酔い痴れるのだ、瀝青と麝香と椰子油の入り混じった匂いに。

　長いあいだ噛ませておくれ、君の重くて黒い編毛を。君の弾力があり手応えのある髪を噛んでいると、私は思い出を食べているような気がするのだ。

[解説]

　次の「旅への誘い」と共に、韻文詩と散文詩が姉妹作を成す作品。韻文詩「髪」（『悪の華』再版23番）の１詩節（５行）が散文詩「髪の中の半球」の１段落に相当し、全７詩節（７段落）と、長さもほぼ同一である。韻文に対して形式が散文であることは当然として、内容的にもより散文的な語法やイメージが際立っていて、ボードレールの反詩的志向がうかがわれる。「思い出を食べる」というような即物的表現は韻文詩には見られないものだ。ここにもまた（外情報的に）韻文詩／散文詩の対位法が成立しているのである。