晩鐘

田　原

今、私はその鬱陶しい響きの中で老けてゆく

嵐の後の海面のように、音の波が

砂浜と海岸をやさしく舐める。今

鐘の音に覆われた都市は老けてゆく

それに縛られた人間はひもを振り切る

昼に彼らは精神の旗をかけて熟睡し

夜に彼らは理想の矛を担いで夢遊する

鐘の音は紊乱の足取りに踏み砕かれ

そして風に天地の果てまで吹き飛ばされる

仮寝の樹木は鐘の音を拒むようだ

そのあかぎれの切れた皮膚に包まれた年輪の中は

鐘の音の音盤であり、木の中で響き

木の芯で冬眠している虫を目覚めさせる

しかしそれはまた夜中に枝に飛び返った鳥たちの催眠曲である

鐘の音　鐘の音

その飛行する音と落下する音は

滝が天から流れ落ちるように激越で

柳絮が舞い上がるようにしなやかである

雲に触れて　雲は音の花を咲かせ

田に落ちて　大地は天外の星のように落下する

鐘の音　鐘の音

それを鳴らした指はとっくに地下で腐敗した

しかし先祖の不死の魂は

ある土地の中で耳を澄まして聞いている

鐘の音は、六朝五府を響いてくる

古代のローマ、インドとチベット高原を響いてくる

星空と地表も響いてくる

石はその響きの中で風化する

大河はその響きの中で涸れてしまう

人類はその響きの中で死生する

私は鐘の音の中の暴動と一揆を思い出す

鐘の音の中の陰謀と計略も思い出す

暗い歳月において　鐘の音は鐘の音である

明るい日々において　鐘の音はやはり鐘の音である

時間はその音質を変えられないが

それはかえって時間と日々を変えてゆく

それはいつも大きな黒い羽根をばたばたさせる

時には蝙蝠のように私の目を遮ったことがあるが

カラスのようではなく　鳴き声が人を呪う内容を持っている

コウテンシのようではなく　囀りが美しい

そして銅鑼のようでもなく　快く響く

それは素朴であるほど鬱陶しく　金属の重さを帯びて

母親の呼び声のようである

その鳴り響きを低くする雷鳴はない

それより多くの感動をもたらしてくれる音楽もない

私は鐘の音の中に生き　歴史を傾聴する

私は鐘の音の中に死に　未来を傾聴する

そしてそれにやさしく埋蔵される

鐘の音は石と火から来たものであると知っている

それは先祖の命と知恵の結晶であると

さらに知っている