夏のコラージュ　（「びーぐる―詩の海へ」17号）

山田兼士

入道雲に誘われて海辺の墓地を訪れた夏　志摩の夏それともセートの

夏　少年は習いたての自転車に乗って坂道をひたすら上ったり下った

り　少女は父の自転車に乗せられて遅れてくる母を励ましている　遠

くそびえる灯台は墓標ではない　そんな家族が疾走する真夏の夜空に

夏は死者たちの王国　そんな言葉がふと浮かんだ　去年まで住んでい

たマンションの玄関先には１本の欅があって　他に鳴く場所のない蟬

たちが集まって大合唱していた　その欅も切り倒されて　行き場をな

くした僕たちは古墳の丘に引っ越したのだ　幾千の仲間を引き連れて

自動販売機で買ってきたナイアガラに火をつけると　丘は白い炎に包

まれた　今年初めての花火だ　続いて赤滝青滝の炎が揺れる　幼いこ

どもたちと海の家で花火をした時には開発されていなかった炎たちだ

生きてみなきゃ　海から吹き上げる風の中で詩人はつぶやく　百年後

の人たちのために　男は炎を凍らせるだろう　女は星を撒くだろう

少年の自転車は夜空を駆けるだろう　少女は祈る　瀕死の夏に向って