家族の昭和　大学篇　（「びーぐるー詩の海へ」１３号）　　　　　　 山田兼士

　　友と母別れと出会いを繰り返し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

昭和四十八年の春休み　大学近くのジャズ喫茶ＰＡＮは

ツタのからまる階段を上り　扉をあけてすぐ右側

窓際の明るい席がぼくの読書スポットだ　そこで

初めて長野隆に会ったのだ　下宿の先輩の紹介で

わけあって二年遅れで　ぼくと同級生とのこと

たちまち意気投合し下宿に招待して　文芸部にも

その後は別れと出会いを繰返し（＊）　四年ほど経って　　　　　　 ＊中島みゆき「時代」より

ランパス礼拝堂で長野の結婚式　勝手に参列し喜ばれて

翌年同人誌を一緒に立ち上げた　さまざまに葛藤し

そのうちぼくは婚約したが　わけあって仲人に困り

結納の使者を長野に頼みこみ　大垣まで出向いてもらう

母に出会った唯一の大学時代のともだち　（婚約者は別）

　その秋に母は死んだ　結婚式の段取りをすべて済ませて　享年五十一

　その二十二年後に長野も死んだ　妻と二人の娘をのこして　享年四十八

　

　　雪でしたあなたのあとをこだま号

新幹線岐阜羽島駅を夕刻出発したこだま号は

大垣を過ぎたあたりでしばし停車　雪のためとか

闇が迫る窓ガラスに打ち付ける雪　雪　雪

この雪が正確に描写できなければ小説なんて無理

駅まで車で送ってくれた兄の苦笑を

窓の雪に思い描いてみること

右半身不随の父と入退院を繰返す母のことは

兄に任せている　そのうしろめたさを覚えながら

それでも大阪に帰る　学校があるからとの理由が歯がゆい

闇に紛れて聞こえて来るのはフォークグループ「猫」の「雪」

｢雪でした　あなたのあとを　なんとなく　ついて行きたかった」

僕はあなたについて行く決意を固めていた

　｢闇の扉｣も「天窓」も「光壁」も、小説はすべて封印、

　詩も当分封印（三十年ぐらい？）、まずは学問、そう、学問。