勝浦で明日は咲こう花咲こう（「びーぐる―詩の海へ」11号）　　　

山田 兼士

大垣を出発して南紀へ向かうバスは貸し切り

なぜかおばちゃんたちにまぎれこんだぼくは十一歳

母が「班長」を務める生保会社の慰安旅行である

県境を越えたあたりでマイクが回される

母がおずおずと歌い始めたのは「悲しい酒」空気読めない

酒を飲めない母のソプラノはなぜか情感たっぷり

続いてぼくが歌ったのは吉永小百合＆三田明の

｢明日は咲こう花咲こう｣なぜか空気読みすぎの

長旅の果てにたどりついた勝浦の湯は団体さん貸し切り混浴も

同行の女の子とでくわしたらどうしよう（うれしいかも）

とハラハラしながら一度だけ浸かってすぐに脱出

翌日は白浜千畳敷などを見物しながら大阪着

中之島の本社ビルのロビーで母とツーショット

ぼくの初めてのカラー写真　母四十歳　死の十二年前の