春の重さ（「QUARTETTE」第５号）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　

山田兼士

――つまりはこの重さなんだな。――（梶井基次郎『檸檬』）

早産で生まれた孫が

一ヶ月で退院してうちに来た

こわごわ抱いてみた　軽い

やがて　日一日と重くなり

本来の予定日を過ぎたころ

ふと抱いてみたら――

この重さ　この感じ

三十五年前にはじめて子を抱いた

あのときの感じが蘇ったのだ　ありありと

――つまりはこの重さなんだな……

深く納得した春の日

赤子は透明な瞳で

雄弁に語っていた

　　ぼくハルです　よろしくね

そんな　春の重さを

両腕にずしりと感じた

この両肘の痛みはずっと消えない

肘をかばいながら

生後三ヶ月の赤子を寝かしつけていたとき

ふと　まちがえて　息子の名を呼んだ

近くにいた息子は

あ、ねむくなった

とつぶやいた

そんな

家族の情景を

詩　と呼びたくなった

春の重さである