春の微笑

(「びーぐる」第40号)                                         

山田兼士

 

生まれたよ ぼく

やっとここにやってきた (谷川俊太郎「生まれたよ ぼく」)

 

ぼくも生まれたよ

とてもいいところだと聞いていたから

ちょっと(かなり)フライイングしちゃった

おかあさん 心配させてごめんね

春のはじめに きみはやってきた

小さな全身をふるわせながら

大きな声でおもいきり絶叫しながら

それがこの世界との出会いだった

でもぼくは知っている

おかあさんもフライイングして

ずいぶん心配させたって

おかあさんのおかあさんがいってた

二〇一八年三月二日午前一時四十五分

集中治療室で十五秒だけの対面

不思議なような新しいような

三十数年ぶりに思い出した感覚だな

いそいでミルクを飲ませすぎて

予定日を過ぎたころには

小太り? だったって

ぼくもそうなるのかなあ 

まだひとことも 話せないけれど

泣き声でしか 表現できないけれど

眠っている間に手足が動くのは

夢をみているためだろうか でもどんな?

とにかくこれからよろしくね

なにかとお世話になるけれど

いろいろ心配もさせるけれど

がんばって大きくなるから

人の世の喜びも悲しみも苦しみも

これからいろいろ待っているけれども

海も空も山もきみを待っている

春の微笑がきみを包みこんでいる

さっき顔がひきつったのは

せいいっぱいほほえんだつもり

はやくおとうさんにも会いたいな

はじめまして ぼくハルです