小野十三郎邸界隈徘徊

(「交野が原」76号)

 

山田兼士

 

小野邸を探して

阿倍野区界隈を徘徊

僅かに残された路面電車

松虫駅と地下鉄昭和町駅の間の

下町の住宅街の片隅に

小野十三郎邸は

あった

 

お世辞にも

豪邸とは言えない

二件長屋の左側の家である

もちろん小野さんがいるわけはないが

表札はかかったままである

いまにも下駄履き姿の

詩人が出てきそう

 

昭和十年から

平成八年に死ぬまで

詩人はこの家に住んでいた

詩人のすべてはテクストの中にあると

信じる者にとってこの場所は聖地

にして禁域だがその拘りも

既に消えていた

 

詩人が通った喫茶店で

珈琲を飲みつつ壁を見上げると

相田みつをのカレンダーが目に入る

小野十三郎カレンダーがあってもいいのにな

と思いながら店を出たら

秋の日はとっぷりと

暮れていた。

 

あべの筋に

出て見回しても

詩人が通ったパチンコ屋は

今は もう    

ない