明日香風 (「大阪春秋」2016年春号)

山田兼士

 

采女(うねめ)の袖吹き返す明日香風都を遠み(いたづら)に吹く(志貴皇子 万葉集巻一)

 

ねりまがった山道を

ばりづよく登り切ると

のまえに見えるのは

はらに浮かぶ大和三山

 

のかみ香具山と耳成山が

あい 畝傍山を奪い合ったという

しぎな話がふしぎでなく思えるほど

みょうにリアルな立ち姿

ぜが二上から畝傍へと

だたりを越え近づいてくる

ると聞こえるのだ悲運の皇子のささやきが

 

すかの風は今も変わらず

ずしげな表情で

つての都の賑わいを

皇女(ひめみこ)皇子(みこ)の恋を

ったいおんかんで歌い続けている

 

やこを遠みいたづらに吹く のは

がて蘇るべき死者のため

の世の苦悩と失望のすべて

を 天上へと吹き上げるため

おいとおおい未来へと

のかな息吹を送るため

ずからの声を送るため

 

つもいつまでも

だひたすらに

っとづっと変わらずに

ちもなくらちもあかず

じょうの山から盆地へと

く風は昔も今も 飛鳥へと

まなくゼフュロスの息を送りつづけている