秋の味覚

（「樹林」２０２０年１２月号）

山田兼士

丹波に住む友人から黒枝豆が届いた

毎年恒例の秋の味覚だ

さっそく茹でてありがたくいただく

そういえば

昨年は一度も口にしなかった

緊急入院の翌日に届いていたことを

半年後にようやく知らされた

息子夫婦がみんな食したらしい

そういえば

坂越のカキも　釧路のサンマも

中国のマツタケも　ノルウェーのサーモンも

去年はまったく見てもいない

なぜかローストビーフを食べたくなって

（もちろん病院食堂のメニューにはなかった）

黒毛和牛ももブロック１キログラムをネットで注文

自分で調理して家族みんなにふるまった

病気で倒れてちょうど一年めの日から

全快祝いということで家族八人が（幼い孫二人を含む）

三日間晩食を共にした

自分の祝宴は自分で料理するのが自分流

さすがに息子や娘ほどには食べられないが

赤ワインはだれより多く飲んだ

五十年近くの習慣だった喫煙（一日五十本）をやめたのだから

少量のワインぐらいは大目に見てもらって

秋の味覚に添えられたら　

生き延びた甲斐もある

生死の境をさまよった（らしい）二ヶ月と

両脚のリハビリに費やした五ヶ月

退院してまず食べたかったのは伊勢海老温泉蒸しだが　

志摩半島には行っていない　コロナ禍のせいで